手術すれば治る? 


 まだ30台の若い看護婦さんが逝った。それも胃癌で・・・・。 白血病などは若い人も多いが、胃癌はめったにないのに。

 彼女は胃の不調で内視鏡検査を受け、小さな潰瘍から癌細胞が発見された。 その癌細胞は悪性度が高いもので、見かけ上は小さな病変だが、 浸潤している心配があった。「悪性の心配があるから手術した方がよい。」と説明され、  外科病院が紹介された。当時、癌の告知はまだ少ない頃であったが、患者がナースであり、外科医は 「早期癌で、手術すれば治る。」と説明して胃を切除した。順調に回復、1ヶ月で職場に復帰した。

 彼女は癌と診断されながらも、治ると信じていたでしょう。小さな子供達のためにも、 死ねないと思っていたに違いありません。

 しかし、半年ほどで再発、私の病棟に入院。まもなく、全身状態は急激に悪化。 「延命処置はいりません。」との気持ちが伝えられ、まもなく帰らぬ人となりました。


 「手術で治る。」と説明した外科医をせめることはできないでしょう。 少しの間だけでも希望をもって生きることが出来たのだから。 それとも、再発したときの悲しさを思うと、はじめから「再発も考えられる」と 説明すべきだったのでしょうか? 

 現在、患者と医師の関係は「信頼関係」から「契約関係」に変わろうとしています。 癌患者への告知は一般的になってきていて、その場合の原則は

1、説明と同意(インフォームド・コンセント Informed Consent)
2、科学的根拠に基づいた治療(EBM Evidence Based Medichle)

 簡単に言うと「科学的根拠にもとづき説明し、同意を得て治療する。」ということです。 科学的根拠にもとづくとは、極論を言えば、どんな場合も「手術すれば治る。」とは言えず、 「多分、90%の確率で治るでしょう。」などと説明しなければならない。

 90%の確率なら、私なら本人には「大丈夫、治りますよ。」と言ってしまいます。 「多くの患者さんはたぶん癌であろうと思っていても、医者からは『あなたは癌です。』と言って欲しくないはずだ。」 と、いまでも信じている私は古くて、いいかげんな人間なのでしょうか?