特別養護老人ホームで最期をみとる

家族同意書とり最期みとる 病院に送らず、1年で9人 

 
記事:共同通信社
提供:共同通信社

【2006年6月19日】

 東京都北区の特別養護老人ホーム「みずべの苑」(川崎千鶴子(かわさき・ちづこ)施設長、定員50人)で入所者の最期に関する家族の希望を同意書に明記、記載内容に基づき病院への搬送を差し控え、施設内でみとったお年寄りが2005年11月までの1年間に9人いることが17日、分かった。

 介護保険で今年4月から特養ホームに「みとり介護加算」が新設され、施設での終末期ケアが今後広がるとみられる中、事前の意思確認を明確化する手続きとして注目される。ただ、入所者本人の意思は認知症などのためいずれも確認できなかったという。終末期の診断に慎重さを求める指摘もあり、課題を残した格好だ。

 みずべの苑は04年11月に終末期の対応に関する同意書を導入。1年間の運用状況を、筑波大大学院の田宮菜奈子(たみや・ななこ)教授(ヒューマン・ケア科学)らの研究グループが調査した。  それによると、同意書に基づき施設でみとった9人は86-100歳の男女。要介護度は1人を除き4または5と重く、死因は心不全や肺炎、老衰などだった。

 食事が取れなくなるなど、容体の変化をきっかけに嘱託医が病状の見通しを家族に説明。「特別な医療は行わず施設で終末を迎える」などの希望を同意書に記し、家族が署名、押印していた。
 同意書作成から死亡までの期間は平均175日。急変時など終末期以外で治療が必要と判断した場合は、同意書の対象外で、病院に搬送した。

 川崎施設長によると、終末期に嘱託医は家族の同意に基づき心臓マッサージや人工呼吸器、点滴などの処置は行わず、口からの少量の水分補給や体温調節にとどめるなど、入所者に負担をかけない方針を取っているという。
 川崎施設長は「同意書は医師や看護師と家族が話し合うための道具の1つ。本人の意思確認は難しいが、日常会話から死生観を推し量り、家族の考えとすり合わせていく努力が大事だ」と話している。

▽みとり介護加算  みとり介護加算 医師が回復の見込みがないと診断した特別養護老人ホームの入所者を、施設内でみとった場合などに介護報酬が優遇される制度。2003年に厚生労働省所管の研究機関がまとめた調査では、具合が悪くなった入所者を施設内でみとる方針の特養は19%にとどまり、過半数の55%が速やかに病院などに移すと回答した。年間30兆円を超える医療費の削減を目指す厚生労働省は、自宅や施設で終末期を過ごせる人が増えるよう地域医療の充実を目指している。


(筆者の感想)

 今回のケースは末期の高齢者に対し、家族の同意のもと、 治療を行わず、看取ったということである。延命治療を中止する条件として横浜地裁の判決(右表)がある。 さて、この条件をみたしているだろうか。

 問題は@の末期の診断である。水分、栄養を与えなければ人は死ぬ。 自分で食べられなくなったら最期であると定義すれば、この特養の対応は条件を満たすかもしれない。
 しかし、水分、栄養が与えられたら、まだ生きられる状態、場合によっては、体調がもどり、 再び自分で食べれるようになるかもしれない。それが不可能と言い切れるだろうか? 介護、医療の放棄、みなし末期である可能性が残る。

 厚生労働省のみとり介護加算は、単に医療費を少なくするための制度に思える。 最期の看取りは純粋なる気持ちで介護するもので、お金に換算してほしくない。

 高齢化社会を向かえ、高齢者の病気の治療を社会的に無駄なものとして考える風潮はいけない。 命を大切にするという基本から、尊厳死を考えるべきと思う。