愛別岳(2112m)


愛山渓ー永山岳ー愛別岳

平成15年 7月13日(日) 小雨のち曇り時々晴 山本公雄、樋田文太郎
愛山渓(4:55)−(5:20)三十三曲坂分岐(5:25)−(6:30)滝の上分岐(6:40)−(8:10)銀冷水(8:20) −(8:55)1永山岳(9:10)−(9:35)安足間岳分岐(9:40)ー(9:35)愛別岳分岐−(10:40)愛別岳山頂(11:20) −(12:15))愛別岳分岐−(12:25)安足間岳分岐(12:40)ー(12:50)永山岳(12:55)−(13:40)銀冷水 −(14:40)滝の上分岐(14:50)−(15:35)三十三曲坂分岐−(15:55)愛山渓登山口
 登り5時間45分 山頂休憩40分 下り4時間35分  行動時間 11時間00分

 霧におおわれることが多く、なかなか姿をあらわさない愛別岳。大雪の主稜線からはずれ、 まだ登ったことはもちろん、その姿をみたこともない。僕にとっては幻の山だ。友人と ついに、登山を計画する。

 前日18:40小雨の中、愛山渓温泉に入る。友人の車がある。先に到着している。 愛山渓温泉には本館と別館があり、山小屋である別館が今夜の寝どころ。
 荷物を持って、中に入る。登山者のにぎわい。いたるところにヤッケなどが干してある。 石油ストーブがたかれ、風呂場のような熱気と湿度だ。 1階は混み合みあっていて、2階にあがる。相棒がいた。顔を合わすなり、
 「沢が増水して大変だ。」
話をきくと、同じ2階にいる東京からのパーティが黒岳石室から今日下ってきたが、
   「途中ひどい雨に合い、愛山渓手前の最後の渡渉点が増水していてやっと渡った。 前に渡ろうとした単独行の人は、二度流され、また岸に戻り、 警察に電話で救助を依頼したが断られ、困っていた。 助けて一緒に渡った。沢は腰までの水、登山道もまるで沢の中みたいだった。」
さて、どうしたものか?明日登る予定の道だ。
 「たぶん今晩降らなければ水はひけているだろう。」
まわりの皆の意見が一致した。

 最近、このような山小屋で泊ったことがなく。同室の登山者といろいろ 山のことを語る。久しぶりに楽しいひと時を過ごす。明日のことを考え10時前には 寝る。
(写真上:愛山渓温泉別館。山小屋になっている。一泊2500円で、本館の温泉には 当日および、翌日下山時も入れる。温泉そのものは小さな内湯のみ。下:別館の2階の 様子。)


 朝4:00目覚める。今日の長い行程を考え、5:00までには出発しなくては。 ガイドブックのコースタイムで登り5時間、下り4時間はかかる。 最近の体力を考えると、これに休憩時間を入れると、10時間以上はかかる はず。空はどんより曇り、天候は心配。天気予報では回復するというが・・・。



登山口の案内図


 4:55出発。昨夜は雨が降らなかったようだ。前からの予定の沢コースを行くこと決める。 長い行程を考え、途中でばてないよう、ゆっくり行くこととする。 まもなく増水していたという渡渉点に着く。前日ははっきりしなかったという丸木橋もしっかり あり、沢の水量も普通の状態のようだ。前日の話が信じられない思いだ。
(写真右:第一渡渉点の丸木橋)  丸木橋を渡るとすぐ三十三曲坂分岐。この三十三曲坂は数年前、沼の平から歩いてきたとき 下ったが急な曲がり道がつづき、いやになった思いがある。沢沿いの道は一箇所の崩れかかった 場所を除き、歩きやすい道だ。



 エゾノリュウキンカの咲いていた場所で一休み。ここのものは大きくきれいだ。
 沢の音が激しく聞こえてくる。滝にちがいない。正面に大きな滝が見えてきた。 村雨ノ滝だ。もっと下に昇天ノ滝もあるはずだが、見過ごしてしまった。(下山時には対岸側 に見ることが出来た。)

    
エゾノリュウキンカ               村雨ノ滝


 道は村雨ノ滝を上に向かって大きく右に高巻いている。滝を越えると、渡渉点だ。 渡るとすぐ滝の上分岐にでる。ここからは道が悪い。大小の石、さらにぬかるんで すべりやすい。最大の難所か。潅木からササにかわり、さらに背の低いササとなり、 いよいよハイマツ帯にでる。小雨が降ってきた。ヤッケを着込む。ガスの中、まわりは 何も見えない。



ガスの中につづく登山道


 チシマギンバイ、イワヒゲ、チングルマなどの花がだんだん増え、 お花畑にになってきた。沢の音が聞こえる。銀明水の水場につく。いいところだ。 ガスにけむる沢のまわりはお花畑、ハクサンイチゲ、キバナシャクナゲ、ツガザクラ、チングルマ が咲いている。小休止、銀明水を飲む。雪渓から流れ出る冷たい水。おいしい!
 雨はやんだようだ。いよいよ永山岳への登り。いたるところ花。 花を見ながらゆっくり登る。だんだんあたりが明るくなりどんどん晴れてくる。

    

  銀明水とお花畑               永山岳への登り斜面のイワヒゲ


 岩峰が見え、岩が積み重なった永山岳山頂に着く。青空が見え、旭岳が姿を現した。

    

          旭岳                  永山岳山頂にて(筆者・左と相棒)


反対側の崖の向こうに愛別岳への稜線が見える。山頂はガスの中。

 

愛別岳への稜線、山頂はガスの中


休憩後安足間岳の分岐に向かう。分岐から愛別岳の崖をのぞきこむ。
ガスの切れ間からついに幻の愛別岳が姿を見せた。

 

姿を見せた愛別岳


 愛別岳への分岐へ急ぐ。しかし、分岐に着くと愛別岳は再びガスに包まれる。
分岐からは火山灰の急斜面の下り。登山者が一人歩いている。

    
  愛別岳分岐の標識                山頂は再びガスの中に消える


 ガスの中、山頂は全く見えず。急勾配の斜面を下り、火山灰の尾根を進む。途中の岩場を慎重に下りる。火山灰の の中でもチシマキンバイなどの花が咲いているのに驚く。何度かのアップ・ダウンを過ぎ、 急なガレ場を上がると山頂だった。4人の登山者が休憩していた。

「ごくろうさん。」
「やっと着いた。何にも見えないなー。」
「登るときの雨を考えれば、ここまで来れたのは幸運だよ。」
「本当、そのとおり。」
「ここはなかなか来れず、やっと来れた。」
「僕達もそうだよ。」

 みんなの会話がはずむ。明るく、暖かい山頂であるが、まわりは見えず。昼食を食べ、 ガスが切れるのを待つ。 山頂の標識はこじんまりしている。ふとみると山頂にコマクサが咲いている。時期はちょっと 遅いが、山頂に咲いているのはめずらしい。

    
愛別岳山頂の標識                山頂のコマクサ


 ついに晴れず。あきらめて下山することとする。もし晴れれば、比布岳、北鎮岳、凌雲岳などを 眺めることが出来るのに・・・・。
 あれ・・・!下り始めてまもなく、ガスが晴れてくる。これから戻る主稜線が壁のように前に立ちはだかる。 しだいに帰路がはっきり現れる。あの壁をよく下って来たな・・・。

    
ガスの中から現れた主稜線             はっきり見え始めた帰路


 そして、振り返ると愛別岳が火山灰の荒涼とした稜線の奥に、緑色に鋭く聳えている。




帰路に姿を現した愛別岳


 心配していたより、苦労なく比布岳ー安足間岳の主稜線上の分岐に戻る。しかし、 まもなく、愛別岳はガスの中に消えてしまう。その後、もう2度とその姿は見ることは出来なかった。
さっき見た愛別岳は幻か・・・?

                 幻の愛別岳は幻となって消えてしまった !!

 下山は疲れていたが、永山岳からのお花畑は快適だった。ルンルン気分の下り。
ただ、ハイマツ帯を過ぎてから滝の上の分岐までの岩とぬるぬるの悪路にはちょっとてこずったが。


    
エゾハクサンイチゲ                        コマクサ     


アドバイス・感想: 旭川から層雲峡へ向かうと、当麻町、比布町、愛別町の3つの 町を通る。この3つの町名はそれぞれ当麻岳、比布岳、愛別岳に由来する。旭岳ー黒岳間の銀座通りからずれているので 知名度は低いようだ。旭岳から眺めるこれらの山はなかなか立派であるが・・・。
 この中で愛別岳は僕にとっては幻の山だ。 表大雪では珍しい2000mを越す特異な岩峰でであるが、お鉢周囲からは北鎮岳、凌雲岳に隠れて見えないし、 旭岳からも北鎮岳ー鋸岳ー比布岳の稜線に遮られる。 かって、北鎮岳から当麻岳を歩いたときも、天気が良かったが、愛別岳はガスの中。どうも 愛別岳は沢筋の上にあり、上昇気流が強く、すぐガスにおおわれ、霧の愛別岳だ。その姿をみるのは摩周湖以上に幸運なチャンスが必要なようだ。
 今回20人ほどがこの山に登っていた。山頂で会った3人と僕達2人の計5人は 表大雪山系の最後の山としてこの山に登っている。主稜線から離れ、行程もきつく、さらにガスに隠れる ため、なかなか登るチャンスが難しいのだ。
 分岐から愛別岳の道は変化に富む。急斜面の火山灰のあと岩場と尾根のアップ・ダウン を繰り返す。1箇所危険な岩場があるが注意深くすれば大丈夫。 上から見るほど実際に歩くと危険はない。 火山灰の尾根のあと、急な登りで山頂に着く。後半は花も多い。
 登り始め小雨の中、その後もガスも多く、大雪山系の展望はあまり望めなかった。 またまた幻で終わるかと心配した愛別岳だったが、ガスの切れ間からその全容を見、 無事山頂を踏むことができた。 これで、表大雪の主な山はすべて登った。ほっとするとともに一抹の淋しさも感じる。