北海道の山の名前はアイヌ語をもとに
しているものが多い。大島亮吉は「アイヌほど美しい地名をつける種族はいない。」と
感嘆した。山名の由来については諸説があり、意見が分かれているもの、わからないもの
も多いが、文献をもとに、わかっているものを一応まとめてみようと思う。参考文献:知里真志保著
「アイヌ語入門」(北海道出版企画センター)、北海道新聞社編「北海道百名山」、
山田秀三著「北海道の地名」「アイヌ語地名を歩く」(北海道新聞社)、更科源三
「アイヌ語地名解」、北海道環境生活部「アイヌ語地名リスト」(平成13年)他 |
アイヌ民族の自然観・・・山は生き物 | ||
アイヌ語で、山の事は「ヌプリ」といい、 合成語のなかでは「シル」 (日本人は「シリ」となまる)ともいった。 「イワ」も岩山、今は単に山を意味するが、 もとは祖先の祭場のある神聖な山をさしたらしい。 アイヌ民族は、基本的に自然を生き物としてとらえ、 山は肉体をもった生物(人間)であり、頭も鼻も首も顎も胸も腹も尻も具えていると考えていたようです。 山頂 ・・・山の頭のてっぺん「ヌプリ・キタィ」 山の斜面、山腹・・・山の胸板「ヌプリ・コトル」「シル・コトル」 山麓 ・・・山の尻「ヌプリ・オント」 峠 ・・・うなじのくぼみ「オクチシ」 このHPのトップ・ページの写真の恵庭岳は 恵庭岳 「エ・エン・イワ」 頭の・とがっている・岩山 (実にぴったりの名前です) 男女の性別や、人間関係もつけています。 雄阿寒岳 「ピンネ・シリ」(男・山) 雌阿寒岳 「マッネ・シリ」(女・山) 爺々岳(千島)「チャチャ・ヌプリ」(爺・山) 藻岩山 「モ・イワ」(子・山、 小さい・山) 札幌のシンボルの山であるが、本来のモ・イワは現在の円山のこと。 現在の藻岩山は「インカル・ウシ・ペ」(眺める・いつもする・処)といい、 昔からその上で、眺望する処だったらしい。 | ||
山 名 | 由 来 | 備 考 |
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十勝岳 | トカチの語源がはっきりしていない。 @「トカプ・ウシ・イ」乳房・ある・ところ。乳の形に似た丘があった。(秦) A川口の流れは乳がでる如し(松浦) B「ト・カ・(オ)・プ・チ」沼・辺り・(にある)・所・枯れる。川の中程の大沼の辺りを焼き通行しやすくした。(上原) C「トウカプチ」幽霊。(永田) D「トーカプチ」乾いている。(バチラー) |
美瑛側から十勝岳の稜線を見ると、みごとに、横から見た女性の乳房にみえ、全景から「乳」 の表現が生じたのかなと考えたことがある。さて、頭はどちらでしょう?? |
恵庭岳 | アイヌ語の「エ・エン・イワ」(頭のとがった岩山の意) | 山頂に岩峰があるが、山頂部がくずれてきており、岩峰は崩壊の危機にある。 |
幌尻岳(日高) | 「ポロ・シリ」(大きい・山) アイヌ語の発音からみて「幌」は「ホロ」でなく「ポロ」と「°」を つけて発音するのが正しいようだ。なお、蝦夷地には「ポロシリ」と呼ばれる山は8山あるという(渡辺隆)。 | ポロの原義は「親の」であり、「大きい」「多い」は派生した意味とのこと(知里)。 川では「ポロ」(親)に対し、近くに「モ」「ポン」(子)のつく 小さな川があるが、山では親子関係ははっきりしない。山でつかう「ポロ」は「大きい」という 意味が主か? |
利尻岳 | 「リー・シリ」(高い・山、土地、島)海、川などからみて 高山、高島、崖を意味する。樺太の古謡に「わが古里の/島の胴体が/水に隠され/高い山が」と謡われて いるように、胴体は水の下。 | 礼文は「レプン・シリ」(沖の・島)の意味 |
手稲山 | 「タンネ・ウェン・シリ」(長い・悪い・山)との説もあるが、 「ウェン・シリ」は「断崖」の意味で、「長い・崖」と訳すべき。別の考え方は今の手稲駅から花畔(ばんなぐろ) にかけて「テイネ・ニッタ」(ぬれている・低湿原野)と呼ばれていたので 「テイネ・ヌプリ」と言ったとの考え方もある。 | 札幌から見る手稲山は山頂は平らであるが、登ってみると山頂は一方が崖 になっており、発寒川から登ると、長い崖が続いているという。 |
羊蹄山 尻別岳 | 羊蹄山が「マチネ・シリ」(女・山)で、 尻別岳が、「ピンネ・シリ」(男・山)とよばれていた。また、羊蹄山は周囲を回わって 流れている尻別川「シ・リ・ベッ」(至って・高い・川 ?)から「シリベツ山」と もいわれ、和人が「後方羊蹄(しりへし)」の当て字を用いたため現在の呼び名となった。 「しりべし」は現在「後志地方」の「後志」として、山の名としては尻別岳に使われている。 さらに、羊蹄山は真狩の地名の、「マツカリヌプリ」とも言われた。 | 共に円錐形で、並んで聳えているが、大きさが全くちがう。 羊蹄山1893m、尻別岳1107mである。他の場所では「ピンネ・シリ」(男・山)の方が、高いのに どうしてかな? |
*ハムちゃんの独り言* 北海道で、代表的な地名「知床」。この地名は 「シル・エトク」 (山、地の・先端・・・すなわち岬)の意味で、固有名詞ではなく一般的名称であった。 だから、樺太、礼文、白老にも同様な地名があるという。「礼文の知床???」ということになる。 ところで、山の足の表現がでてこない。きっと、足は大地の下にしっかり根付いているのでしょう。 |